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【ケーススタディ】[他害]本人の気持ちが向いている方向に

けんかをする子どもたち
目次

サポートの実施方法

発達障害を持つ子の中には、お友達のことを叩いてしまったり、突き飛ばしてしまったり、手が出てしまったり・・また、先生の腕に噛みついたり、怒って物を投げて壊してしまったりと、いわゆる「他害(たがい)」と言われる行動 をしてしまうケースがあります。

「他害行動」をしてしまう子のサポート方法について、ポイントは下記になります。

サポートの実施方法

大人がその場に居合わせること
(=手が出る前の様子がわかる手が出る前に関われる

  1. 手を出す前に関わって、望ましくない経験を繰り返させない
  2. 本人の思い・考え・意志を大事にして、やり取りを成長につなげていく
  3. 可能であれば、子供同士の関係をより良いものにしていく(お互いの理解などを促しながら)

大人が「子供の状況」にアンテナを張りつつ、見守る。
「子供の手が出る前」に関わって、成長につなげる。

他害のことに取り組む時、大事なのは?

  • 『子供の手が出てしまう前に対応する』
  • 『目的は、他害を無くすことではなく、子供の成長を促すこと』

他害に関して、実際の変化は?

「子供の手が出る前」の段階で、子供の思い、考え、欲求を見つけ、その方向にサポートをする。子供の「その部分」が成長すると、結果的に手を出す必要がなくなる(他害がなくなる)という変化が表れます。

ケーススタディ(実際の事例)

今回は、以前ご紹介した『[他害]子供が “手を出てしまう前” にすべきこと』についての「ケーススタディ(実際の事例)」をご紹介します。

今回登場するのは、小学2年生の男の子。
ADHD(多動型)の診断があり、気に入らないことがあると、人を突き飛ばしたり、殴りかかったりしてしまいます・・

幼稚園の頃からこの様な行動が見られ、お母さんはその都度、相手の家に謝りに行ったり、小学校に入ってからも、月に2〜3回は呼び出されたり…、お母さんは大変です。当の本人は「手を出してしまうこと」の問題点については、あまり理解しておらず、家でもしばしば暴れています。

このような状況の中で、サポートを開始することになりました。

最初は週に「1回2時間」同年代6人での「グループ活動」からスタート、本人の様子を見てみました。

とにかく “よく動くきます”
たとえば、相手の合意を得ないまま「チャンバラ」を始めようとしたり、誰かの使っていた人形なども壁や天井に投げたりしてしまうため、仲間同士で “小競り合い” になることが多いわけです。

大人の関わり方

 “小競り合い” “大ごと” に発展しないように、そして「その子の手が出る前」に、その都度大人が介入していきます。手を出されそうになって「 “怖い思い” や “嫌な思い” をした子」のケアも行っていきます。重要なポイントです。

本人の様子をもう少し詳しく見ていきます。

周りの子に話しかけられても「会話は少な目」、1回の活動「2時間」、黙々と動きっぱなしです。そして活動時間が終わっても、 “まだ、力が有り余っている・・” という状態です。

これほど「動く・動ける」というのは、やはり「際立った特徴(多動:たどう)」で、本人の意図的なものというよりは、「身体から来るニーズ」という面が強いのです。この部分は、周囲の大人が理解してあげた方がよいということになります。
(本人は “動いていた方” が落ち着き、心地がよい状態)

「じっとしていなさい」「黙って座っていなさい」というのは、鼻と口をふさがれるようなもので、苦しいなんてものじゃない。身体からくるニーズは抑え込まない方がよいわけです。

本人は、まだ2年生ということもあり、自分の気持ちやどうしたいか? などをうまく言葉にできない感じもあり、近くで活動の様子を見ながら、本人の思いを察していたわけですが、

本人の欲求=「とにかく自由に動き回りたい!」ということがかなり強く感じられました。

「子供の手が出てしまう前」にある、本人の欲求、本当に合っているかはわからないけれど、この方向にサポートしていくことにしました。


ここまでが、サポートの第一段階、本人の欲求を見つけること、本人の思い、考え、意志を大事にしていくために必要なことです。

その後のサポートへと続いていきます。

以前の記事にも書きましたが「他害」のことに取り組むとは言え、サポートする時のポイント、目的は「他害をなくすこと」ではなく「本人の成長を促すこと」です。

本人の成長を促すには、はぴねすメソッドの基本である『本人の気持ち・考え・意志を大事にする」という事が大切になってきます。

これまで活動を近くで見ながらサポートして見つけた、「とにかく自由に動き回りたい!」という本人の欲求、思い、意志を大事に、その方向でのサポートを開始です。(他害を無くすためではなく、本人の成長を促す方向でのサポート)

グループでの活動だと、小競り合いになりがちなので、本人とも相談、合意の上で「グループ活動」をやめ、「スタッフとの個別の活動」に切り替えました。

活動テーマは、本人の欲求そのまま
「自由に動き回る」です。

いざ実行に移してみると、やはり「チャンバラ」などがやりたくなって、新聞を丸めた棒で「おりゃ〜♪」、「うわっ!」、「えいっ!」などと言いながら飛びかかってきます。

ジャンプしながら剣を振り下ろしたり、地面を回転しながら剣をよけたり、飛んでくるたくさんの玉(スタッフが投げるもの)をよけながら、時に打ち返してみたり、とても自由な活動です。

今回の活動テーマは、本人もとても気に入った様子で「もっと、活動時間を延ばしたい!」などと、スタッフに頼んだりもしていました。

この2時間の活動中、本人はずっと動きっぱなし。当然、汗もかく。「汗が出てきた!気持ちいい~♪」などと言いながら、時折2〜3分の給水休憩が入ります。

この休憩タイムに、本人が “少しずつ” 話をするようになってきて・・「…先生、もっと本気出していいよ!」「えっ!?おじさんはコレぐらいしか動けないんだよ!」「本当に…?マジで?」、こんな「コミュニケーション発展の第一歩」も見ることができました。

本人の様子・エネルギーの旺盛な子

思い切り動けて、発散できたら「やっとそこでホッとできる、落ち着ける。」ということがあります。
(逆に、発散ができていないと “ソワソワ” したり、動きが過剰になったり)

これは、大人たちの一般的な視点である「いっぱい動いたら疲れちゃう…」といった感覚・考えとはかなり異なるかと思われます。

サポートをしていく時には、あくまで “子供の立場” になって考えてあげる必要があるということになります。

とにかくよく動く子、動き回りたい子、エネルギーが旺盛な子のなかには、今回の様な活動が合うという子がかなりの数います。ご家庭でも、「本人が思い切り動ける活動・時間」を作ってあげること、推奨です。

とは言え、ちょっと難しいという点もあるかと思われます。「大人を遥かに越える活動量」のある子供たちの「相手をできる人がいるか?」ということです。お母さんだって、お父さんだって、2時間動きっ放しは無理…という点です。家庭での実施を考える場合は少し「工夫が必要」という気がします。

  • 大学生のボランティア(アルバイト)に依頼してみる。
  • 運動系の家庭教師に依頼してみる。
  • 知り合いに運動部の高校生などがいれば相談してみる。

実施場所については、近くの公園等で行なっても良いと思いますが「周りで遊んでいる子たちとの兼ね合い」などが気になる場合は、町の体育館、公民館や自治会館、レンタルスペースを使うのも良いと思います。
(多少お金がかかってしまいますが、2時間単位などで場所をかりる)

さらに、サポートのその後です。

本人からリクエストが出ていた、活動の時間を「週2回」に増やしたいという件、どうにかスケジュールを調整して実施です。

「本人が “ホッ” とできる日(2時間自由に動き回れる日)」を「週に2回」に増やしたわけです。

本人の「リフレッシュ(発散)」「コミュニケーションの発展」もあり、コンディションは「安定」の方向へ向かって行きました。

そして、家でも学校でも、他害は徐々に減ってゆき、サポートの開始から「6カ月目以降」、“他害がゼロ” になりました。

「他害がなくなったので、ひとまずはOK!」

ではありますが、もっと「良い面」があります。

文中でも少し触れましたが、活動を続けていくうち、本人の「コミュニケーション能力」が大きく発展していきました。

周りの人への自発的な質問も多くなり、自分の考えもよく喋る。さらに、相手の話もよく聞けるようになり、会話までとてもエネルギッシュで旺盛になりました。

そうすると、友達や知り合いとの「グループ活動」にも、自然と混じりやすくなっていきます。

もともと、よく動き、積極的な性格もありましたが、学校生活ではなんと「学芸会の主役」に立候補して、見事オーディションで選ばれたり(小学4年生の頃)、習い事も「あれをやってみる!」「これもやってみる!」と、手当たり次第にチャレンジ。1週間のスケジュールは「水泳が週1回」、「エクササイズ系が週2回」、「塾が2回」・・あっという間に埋まっていきました。

習い事に関しては、実は”体験コース” だけ行ってみて、実際には通わなかったものが4つもありました。本人の興味本位で「料理教室」「音楽のお教室」なども見てきたそうです。

お母さんは、お仕事もされていましたが、時間をやりくり、本人の興味に合わせ、体験コースに連れて行ったりの奮闘です。これらすべて、決して無駄では無く「本人の素晴らしい経験」に繋がっていることが感じられました。

最終的には、本人の希望で「思い切り動けてスッキリできる日」を週に3回、「将来的に必要になりそう・・」ということで「塾」が週2回というスケジュールに落ち着きました。


やがて中学に進学するにあたり、私立の中学を志望。受験勉強もばっちりと行い、見事合格!

そして「その先へ」と進んでいっています。

素晴らしい成長ぶり、まだまだ他にもあるのですが、今回のケーススタディはひとまずここまでにします。この後、簡単にこれまでのサポートを振り返ってみます。

今回のサポートポイント

まずは基本中の基本である

  • 「活動する場面に一緒にいる」
  • 「”本人の様子” がわかるように、”手が出る前” に関われるようにする」

というスタイルでサポート。

活動の様子を見ながら、「本人の気持ち・考え・意志」が「どういう方向に向かっているのか?」を探ってみました。

結果、本人の “とにかく自由に動き回りたい” という欲求を発見。
そして、この “本人の思い” を「生かしていくこと」を検討。

「他害」の話とは直接関係はないけれど、「本人の気持ちが向かっている方向にサポートしてみる」ということで、週に1回、“自由に動き回れる時間” を確保。(環境の設定が、とても難しいポイントでした)

この活動は “本人のお気に入りの活動” となっていき、「思い切り動くと、ほっとする」、「落ち着く」という発見にもなりました。
また、この活動を通じて本人が「よく喋る」ようになっていきました。

良い傾向がみられたので、活動の時間を「週2回」に変更。(本人からも回数を増やしたいという要望があった)

本人の気持ちが向いている方向にサポートすることで、本人のコンディションが安定、コミュニケーション能力が発展。

結果的に「他害」がなくなり、仲間や、グループの活動へ頻繁に合流。
少しずつ「本人のよさ」を発揮できるようになっていきました。

その後の、実際の本人の活躍ぶり、グループ活動での様子もご紹介します。
本人が「カードゲームをやりたい!」と思った時の様子です

★(まず1人目を誘う
その子が「ねぇ、暇?」1人目に声をかけて・・
「カードゲームやらない?」「いいでしょ?」「オレ、メンバー集めてくるから」「このテーブル使おう!」「ここに準備しておいて!」「じゃ、行って来るね!」

★(2人目を誘うとき)
「ねぇ、カードゲームやろ!」2人目に声をかけて・・
「楽しいよ〜」あっち見て!既に準備を始めてる人が!」(さっき声をかけた仲間が準備している)
「ハイハイハイ、じゃ、合流してー!」「あと、2,3人呼んでくるねー」

こうして “3人目、4人目のお誘い” と続いていきました。

カードゲームが始まると、皆、楽しいわけです。本人も “楽しいし”、周りの子たちも”楽しい”。周囲に積極的に働きかけて、楽しい活動をお膳立てするなど、本人のよさ発揮、活躍です。

サポート当初は「コミュニケーションのこと」「仲間との関係」などは主眼にしていませんでしたが「本人の気持ちが向かっている方向」へ、サポートが行えると、その部分だけでなく、「その他の成長が一緒に現れてくる」ということがよくあります。

このような意味でも「本人の気持ち・考え・意志」を、よく見て聞いて、ぜひ周りの方が「大事」にしてあげてほしいと思います。

「他害」に関する、具体的なサポート内容、そして「その子に実際にどんな成長があったか」の事例は、 「ケーススタディ」のコーナーでもご紹介をしていきます。こちらも、ぜひご覧になってみてください♪

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この記事を書いた人

発達障害を持つ子、不登校の子供たちとのコミュニケーション・アート制作、お父さんお母さんたちとの相談を中心に、1999年より子供たちの成長支援、家族のサポートを行う。

日本教育臨床研究所認定カウンセラー。1975年東京生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒。日本教育臨床研究所卒。一般社団法人 For All Children Team 代表理事。はぴねす子育て相談室代表・監修。

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