サポートの実施方法
発達障害を持つ子の中には、お友達のことを叩いてしまったり、突き飛ばしてしまったり、手が出てしまったり・・また、先生の腕に噛みついたり、怒って物を投げて壊してしまったりと、いわゆる「他害(たがい)」と言われる行動 をしてしまうケースがあります。
「他害行動」をしてしまう子のサポート方法について、ポイントは下記になります。
大人がその場に居合わせること
(=手が出る前の様子がわかる+手が出る前に関われる)
- 手を出す前に関わって、望ましくない経験を繰り返させない
- 本人の思い・考え・意志を大事にして、やり取りを成長につなげていく
- 可能であれば、子供同士の関係をより良いものにしていく(お互いの理解などを促しながら)
大人が「子供の状況」にアンテナを張りつつ、見守る。
「子供の手が出る前」に関わって、成長につなげる。
他害のことに取り組む時、大事なのは?
- 『子供の手が出てしまう前に対応する』
- 『目的は、他害を無くすことではなく、子供の成長を促すこと』
他害に関して、実際の変化は?
「子供の手が出る前」の段階で、子供の思い、考え、欲求を見つけ、その方向にサポートをする。子供の「その部分」が成長すると、結果的に手を出す必要がなくなる(他害がなくなる)という変化が表れます。
ケーススタディ(実際の事例)
今回登場するのは、小学1年生の男の子『Eくん』。ADHD(多動型)の診断があり、保育園の頃から子供同士で「手を出してしまう行動(他害)」が見られました。
『Eくん』には友達と仲良くしたい気持ちがありましたが、つい相手に “ちょっかい” を出し過ぎたり、距離感がうまくつかめなかったり・・、感情の起伏が激しく、特に「間違いを指摘されたり」「注意されたり」すると、反応が激しくなってしまうことがありました。
家庭での様子はというと、気持ちが高ぶった時には、やはり家でも暴れていたのですが、『Eくん』の家庭では、その都度、「会話やスキンシップ」を大事にしており、”家族の仲” はとても良い状態。子育てに関して、「本人が興味を持ったことは応援する」という明確な方針を持っていました。
・「人」がとても好き。
・周囲の人への「働きかけ」はとても旺盛。(家族以外の大人に対しても)
・「自分の思い」を言葉にするのには時間がかかる。
・「耳」からの認知は “やや苦手”。 (会話でのやりとりが “通りにくい” 場合がある〈本人が黙ってしまうなど〉)
・「視覚」(本や図鑑)からの認知はとても得意。
・全体的に好奇心旺盛で「活発で積極的」。
『Eくん』へのサポート開始
サポートの開始にあたり、まず「週に3回・1時間半」。10人ほどの「グループを通じたサポート」を行いました。
開始して早々のことです。
『Eくん』は、他の子が遊んでいた “人形のおもちゃ” をひょいと取りあげました。
そして、その子に「返して!」と強く言われると嫌になり、すぐに「やけっぱち状態」へ…。
『Eくん』は “人形のおもちゃ” を床にたたきつけ、「コレ、お前のなのかよっ!」「証拠を見せろ!」などと言い返しながら、次第に自分が悲しくなってきて、大泣き・・。
これには、言われた子もビックリして.. もう、おもちゃどころではありません…。
その後の活動でも、他の子に対する “ちょっかい” が多く見られました。
たとえば、他の子に “ぬいぐるみ” を投げて当ててみたり、「どけっ!」と言いながら、相手を軽く押してみたり。当然、相手の子たちに、何かを言い返されます。
『Eくん』は相手に言い返されると、すぐに嫌になってしまう。怒りたくなってきて・・「うぉー!」と雄叫びを上げて、「お前なんかどうせできないくせに、勝手にしろ!」「そんな事言うなら、もう何もしてあげないからな!」など、捨てセリフを吐き、悲しくなってきて、また涙・・。
感情の起伏が激しいのです。
このように、保育園や学校でも『Eくん』の「雄叫び連発」、「大号泣」、「感情の大開放」の行動が頻繁にあり、目立つ、周りの活動が止まってしまうなどがあったため、問題視されてきたようです。
しかし、本人の様子を冷静に見てみると「手が出てしまっている部分」は、ほんの少し。相手に怪我をさせたこともなく、物も投げたりしますが「壊してしまう」ということはありません。
(もちろん、押されてビックリしている相手には、大人がケアを行います)
『Eくん』へのサポート方針
他害への取り組み、サポートを行う際のポイントと目的は、
「他害をなくすことではなく、本人の成長を促すこと」です。
そして、その「本人の成長を促す」ためには、 はぴねすメソッドのコーナーで紹介している基本項目『本人の気持ち・考え・意志を大事に』という方針で “やり取り” をしていくことが重要になります。
まずは、子供たちの様子が見える位置に「大人」がいて、パッと関われるようにしておくこと。
『Eくん』の場合では、「他の子の使っているおもちゃ」を取ってしまったら、すぐに大人が介入し「元々使っていた子におもちゃを返す」という“やり取り”をすることになりました。
「よくないやり取り」のパターンを「繰り返させない」
まずはこの部分を大事にサポートです。
そして、そこでの『Eくん』とのコミュニケーションを重視。
「人が使っていた”モノ”は取らないでね♪」
「他の人のことは放っておいていいから、自分が “面白そう” と思うことを見つけてやって!」
と伝えました。
すると『Eくん』、別に怒りもしないし、泣きもしません。
しばらくすると「じゃぁ…」と言って、アレコレ自分なりのアイデアを出して、やってみたいと言うようになりました。
「工作」に取り組んでみたり「スライム作り」をしてみたり「簡単な科学実験」をしてみたり・・「自分自身の活動」に移ると、持ち前の好奇心を発揮。「スライム作り」に関しては、分量を変えて何種類も作り、違いを比べたり、時間が経つとどう変化するかを見てみたり、かなり優れた思考力、観察力、洞察力を持っていることがうかがえました。 活動を進めていくうちに、本人もイキイキしてくる。コレは『Eくん』の思い、気持ちが向かっている方向であろうということで、『Eくん』へのサポート方針を下記に決定しました。
- 「元々の好奇心」を生かし、「本人が興味を持った内容」をメインに活動。
- 「他の子たち」との「コミュニケーション」は、随時大人がサポート。
その後の『Eくん』へのサポートの様子を紹介します。
一緒に活動していて見つけた、本人が進みたい方向 =「興味を持った活動を本人のペースでやってみる(周りの子とのやり取りよりも優先)」という方針でのサポートです。
『Eくん』へのサポート実例
その後「科学実験の一環」として「氷作り」をすることになった時のことです。
『Eくん』本人より「ジュースを凍らせたらいいんじゃない?」という、とても魅力的な提案があり、早速実施してみることに。
実際に「ジュースの氷」ができあがると、これが「とても美味しい♪」(満面の笑み)。
『Eくん』は、この “大発見” を「みんなにも伝えたい!」ということで、周りに声かけをし「”おいしい氷作り” のリーダー」として動き出すことになりました。周りのみんなも、とてもはりきっています。
「”おいしい氷作り”」がはじまると、『Eくん』は教え方がとても丁寧で、うまくできない子にも優しい。「これが出来上がると、むっちゃウマいからね♪」と話かけたり、相手への「ジュースの氷」の魅力の伝え方だってばっちりです。”いざこざ” もなく、「終始、仲間たちとの楽しい活動」となりました。
こうして、周りのメンバーからも「見直されたり」「仲間という感覚」も育まれ、『Eくん』は少しずつ「仲間想いの気持ち」を発揮するようになっていきました。
たとえば、こんな「仲間を思いやる会話」も見られました。
Eくん:「アイツ(友達のこと)、これ “たぶん好き” だから教えてあげない?」
Eくん:「ちょっとみんな!○○ちゃんは大きい音が苦手だから…もう少し静かにしてあげて!」
などです。
さらに、みんなでおやつを分ける際、「メンバー同士が揉めそうになっている」と、「待って待って!おみくじにしよう!」と提案し、自分でせっせとおみくじを作り、友好ムードで話をまとめたり、ということも。
サポート開始から6ヶ月後
サポート開始から半年ほどが経過し『Eくん』は「学校でも家でも落ち着いて過ごせる」ようになりました。 その後もたまに “仲間との小競り合い” はあったものの、引き続き「年下の子」を仲間に入れてあげたり、「パソコンの使い方がわからない子」には、パッと教えてあげたり、活躍の場面が増えていきました。 |
今回のサポートポイント
まずは基本中の基本である
- 「活動する場面に一緒にいる」
- 「”本人の様子” がわかるように、”手が出る前” に関われるようにする」
というスタイルでサポート。
『Eくん』の活動の様子(「周りの子」が気になったり「ちょっかいを出すこと」があまりに多い状況)から、今回は「周囲との関係」ではなく、本人が「マイペース」で動けるように「本人の積極性と好奇心の強さを生かす方向」へ方針を決めました。
そして、本人には「あまり周りの子たちを気にせず、自分で面白そうなものを見つけトライしてみよう」と提案をし、本人も合意。具体的なサポートがはじまっていきました。
『Eくん』が、工作や実験など「本人のマイペース」で進められるようになると、活動がとても旺盛で発展的になり、興味の持続期間も長くなっていきました。本人のコンディションも安定的になり、気持ちの面でも充実していきました。
「ジュースの氷作り」では、自分で「皆とシェアしたいもの」を見つけては「仲間に声をかけて実施」。この様な “やり取り” を通じ『Eくん』の人間関係やコミュニケーション力も「発展していった」というケースです。
おわりに
元より人好きで感情が豊かな『Eくん』、
人に対する思い、家族に対する思い、
さらに、自然や地球に対する思いがたっぷりある。
皆とシェアしたくなるようなものをいっぱい見つけ、コミュニケーションの方法を身につけたことで、かつて問題視されていた”ちょっかい”は、「よいもの」を「仲間と分かち合う」という内容に変わっていきました。本人にも周りの人たちにも、断然、笑顔が増えました♪
こうした成長は、さらに次の成長につながっていきます。最近(小学5年の後半)では、自分から周りとのコミュニケーションを少し減らし(本人いわく「省エネモード」)、自分の興味がある活動を優先しているとのこと。『Eくん』が、自分自身を磨いていく感じ、もちろんコレも応援したいと思います♪
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